第11章 夜に咲く花
「あの人って……」
「おや、兄弟仲が良いですね」
夕顔の手で開け放された障子に目をやると、瑞が微笑ましそうにこちらを見ている。
二人は瑞に熱視線を浴びせる。
「……え?」
昼顔が部屋を飛び出す。
驚いている瑞に向かい、勢いよく頭を下げた。
「突然ですみませんが、おにぎりを握ってください!」
夕顔も部屋を出るなり、台所に向かって瑞の背中をグイグイと押す。
「な、なんですかなんですか!?」
「瑞さん申し訳ありませんが頼みます……! 兄を部屋から出す救いの糸があなたかもしれません!」
「え、えぇ? 私のおにぎりがですか?」
「いいからさっさとおにぎり握れコラ!」
「わかりましたよ……!」
二人の物凄い剣幕に、瑞は頷くしかない。
無理やり連れてこられた台所で、
「もちろんこのくらい良いですけど、本当にお役に立てるかは分かりませんよ」
きゅっと袖をまくった。
瑞を連れ、昼顔と夕顔は長兄の部屋の前に立つ。
瑞は障子の前に正座をした。
「あのー、瑞です。夜顔さん、おにぎりいりませんか」
「なんだよその誘い方は……! 兄さんを何だと思ってんだよ!」
「まあまあ」
「……返事がないですねえ」
「うーん……起きてるのは確かなんだけど。瑞さんもいるし、出てくるのは流石に無理かな」
「まあ、そう上手くいくはずねえよ。オレらもずっと出て来てって言ってたのに、こんなぽっと出の、それもおにぎりなんかに釣られて……」
その時、すっと障子が開いた。
「……食べる」
現れた夜顔の金色の瞳は、瑞に真っ直ぐに向けられていた。