第11章 夜に咲く花
「……に、兄さん、あのさ。昨日、瑞って奴に会った? なんか、台所でおにぎり握ってたらしいんだけど。夜中に。変なやつだよな」
二階の奥の部屋の前で、夕顔は中にいる兄に語りかける。
いつもの如く返事はない。
夕顔は精一杯明るく努め、
「兄さんおにぎり……好きなの? だから、オレも作ってみたんだけどさ!」
おにぎりの盛られた皿を部屋に向けた。
「……ここ、置いとくから」
小さく笑い、部屋の前にお盆を置く。
部屋を後にしようとした時、
「えっ」
閉じた障子の間からゆっくりと、半紙が出てきた。
「ひひひひひひひるがおおおお!」
夕顔は勢いよく昼顔の部屋の襖を開けた。
いきなり現れた兄に、昼顔が肩を跳ねさせる。
驚き顔で振り返ると、
「うわっびっくりしたあ……! どうしたの、急に」
半紙を片手に夕顔が迫ってくる。
「ににに兄さんの部屋から、障子の間から、ななななんか出てきききき」
「落ち着いて夕顔兄さん!」
夕顔を宥め、力強く握りしめられた半紙を受け取る。
広げると、
「これは……手紙だね」
綺麗な達筆で字が書かれていた。
「え! 何、なんて書いてる!?」
「えっとねえ……おにぎりはあの人に握ってもらってくださいって書いてある」
昼顔と夕顔は顔を見合わせる。