第11章 夜に咲く花
翌朝、
「そう言えば……昨日、新しい方にお会いしたのですが、名前を聞けずじまいで」
朝餉を取りながら瑞が呟く。
「まあ陰間は沢山いるからな。まだ会ってないやつもいるだろうが、自己紹介くらいはしときたいよな」
萩の言葉に頷く。
「どげな人じゃった?」
瑞は撫子の質問に箸を止める。
夜空のような色をした、光沢のある黒髪。
目にも止まらぬ速さ。
それらを思い返し、口を開いた。
「黒くて艶々してて、動きがとても早かったです」
「ゴキブリか?」
誰かが撫子に突っ込みを入れる前に、
「……ゴキブリじゃねえ、です」
夕顔が口を開いた。
昼顔も引きつった顔で頷く。
「瑞さん……多分それが、以前話したうちの長兄です」
驚きの声が上がった。
「えーー! 夜顔さん部屋から出たんだ!?」
「いつぶりだ……!?」
どよめく陰間たちに、瑞は小首を傾げる。
「……その夕顔さんは、そんなに長く部屋から出てなかったんですか?」
「っていうかぁ、年単位よ」
「ええ!?」
蘭の返答に昼顔が頷く。
「夜顔兄さん、かなり前から引きこもりなんです……それにしても、急にどうしたんだろう?」
夕顔が立ち上がった。
「お前、マジで夜顔兄さんと会ったのか!?」
ぽかんとしている瑞に詰め寄る。
「た……多分、名前も聞けなかったので、分かりませんが」
「……じゃあ、厠かなんかに行く時の兄さんをコイツがたまたま見たのか……? 兄さんが他人と顔合わせるなんてねえよな……」
「あ。そう言えば、私の握ったおにぎりを持って行かれましたよ」
「おにぎりぃ!?」
夕顔が素っ頓狂な声を上げた。