第2章 影の世界へ
「……ここだよ〜。みんな、この茶屋に住み込みで働いてるの」
立派な造りをした、二階建ての茶屋の前で桜が足を止める。
瑞が目を見張るほど大きく広々とした建物で、部屋数やからしても数十人は住めそうだ。
「内庭もあるし、畑もあるんだよ。それにお風呂も付いてるの!」
どうやら桜はかなりの綺麗好きのようで、そこでにっこりと満面の笑みを浮かべた。
萩も頭を掻きながら瑞の隣に並ぶ。
「ここの名前は影の花っつってな。いわゆる陰間茶屋だ、あー……兄ちゃんにはまず陰間の説明からか? 陰間っつうのは」
「ねえ萩さん、そういう説明はあとあと! 早く瑞を洗って綺麗にしてあげないと、蘭さんに怒られちゃうよ!」
桜は萩の言葉を遮り、一刻も早く行こうと言わんばかりに瑞の手を握っている。
「あー……まあ、コイツの身なりじゃ蘭じゃなくてもカンカンだろうけどな。そもそもこんな得体の知れねえ男を上げたって……」
ふと顔を上げると、そこに二人の姿は無い。
開け放された玄関に顔を顰めつつ、ほんの少し口角を上げる。
「っていねえし。全く桜の野郎、どんだけ嬉しいんだか」
久しぶりに見せる桜の活き活きした様子に、眉を寄せつつ呟いた。
「さーて俺は旦那様にどう説明すっかなあ……」
そして、さぞ気が重そうに二人の後に続いた。
所変わって風呂場。
「お風呂の入り方は分かる? 大丈夫?」
桜はよく沸いたお湯で満ちた釜を指さし、心配そうに瑞の顔を覗き込む。
「これが褌で、こっちが浴衣! これが帯! 脱いだ服はあとから洗ってあげるからね! ……まあ、捨てても良いかもしれないけど」
瑞はこくこくと頷くも、が気まずそうに、桜を見つめる。
「あの……」
「あ、もしかして帯の結び方が分からない? 大丈夫、それはお風呂から上がった時に教えてあげる! もし無理なら結んであげるし。それともそれとも服の脱ぎ方が分からな」
「いえ、さ、流石に、女性の前で脱ぐのは恥ずかしいです……」
瑞の赤い顔に、桜の顔をみるみるうちに赤く染まる。