第1章 贈り物は拾い物
「ね! ほら、おいでよ」
艶やかな小さな手を青年の前に差し伸べる。
青年はじっと桜を見上げ、つぶらな瞳に桜を映す。
「でも」
空きっ腹と膝を抱え、また首を左右に振った。
不思議そうにする桜が首を傾げると、
「貴方に、迷惑、かけるから……」
青年は消え入りそうな声で呟いた。
桜が自分の胸にぎゅっと拳をやった。
可愛い、と心の内で叫ぶ。
青年の遠慮がちな態度も、不安げな目も、それでいて助けて欲しそうな視線も、何もかも桜の庇護欲を擽るものだった。
桜はキュンキュンと跳ねる胸を手で押さえながら、
「いいのいいの! うちには沢山いるから、一人増えても変わんないよ!」
熱心に誘いかける。
「……う」
青年はのろのろと腰を上げ、手を少し前に出し、萩にも目をやる。
「ね! 萩さん!」
二人のやり取り、特に桜の姿に覚悟を決めた萩は、ぶっきらぼうに頷く。
「好きにしろ」
「やったー!」
桜はその場でぴょんと飛び跳ね、ほんの少しだけ伸びた青年の痩せた手を、勢いよく引っ掴んだ。
「……ねえねえ、名前だけは分かるって言ってたけど、君の名前は? 教えて」
三人で歩きながら、桜が青年に顔を向ける。
「瑞です」
「へえ〜。瑞、よろしくね。桜だよ」
「……俺は萩だ」
「桜さん、萩さん」
「ねえねえ、瑞って呼んでもいい?」
「何とでも、好きなように呼んでください。桜さん、ありがとうございます」
瑞はぴたりと立ち止まり、桜に向かって深々と頭を下げた。
桜はその姿にきゃーっと黄色い声を上げる。
「……可愛い〜! 瑞って犬みたいだよねえ!」
「犬……ですか」
「あ、犬も覚えてない? 犬ってのはねえ……」
上機嫌な桜と対照的に、萩はがっくりと肩を落とす。
身元の知れない男を引き入れたことに顔を曇らせ、これから待ち受けるであろう旦那からの説教にも顔を青ざめさせ、大きなため息をついた。