第10章 こどもの事情
瑞がすっくと立ち上がると、服を掴まれた。
振り返ると、
「さ……最後に日向丸の台詞なんだけどさ、何見てんだよクソガキが、コイツが蹴ってほしそうな顔で見てきたからお望み通りにしてやったんだよ文句あんのか、っておれに言ってくんないかな……日向丸が町人に難癖付けてボコボコにしてるとこを目撃した子どもに言った台詞なんだけど」
菖蒲が酷く興奮した様子で、早口に頼み込んできた。
瑞は耳を疑う台詞に絶句する。
「あと、よく見たらお前は踏んでほしそうな顔してんなって……言って欲しい……」
「いや……そんな……」
「あ、この後ビビって動けなくなった子をほんとに踏みつけるんだけど」
「しませんよそんなこと!」
「じゃあ台詞だけでいいや……」
「え、えええぇ」
瑞は困惑を隠せない。
「まだそんなこと言うとは一言も……」
断ろうと菖蒲を見ると、期待しきった顔で草双子を握りしめていた。
両手でしっかりと抱きかかえられたそれには、確かに瑞とそっくりな青年が描かれている。
「菖蒲さん……」
「あんたが言いたいことは分かるけどさあ……! 一回だけ……」
しばらく考えた後、
「……誰にも言わないでくださいよ」
乱雑に菖蒲の腕を引き寄せる。
「あ……! う、うん……!」
菖蒲の小さな耳元に背丈を合わせてしゃがみこむ。
瑞の唇がゆっくりと開く。
「ンあぁッ……」
ゾクゾクと菖蒲の背筋が跳ねた。
「……お、来た来た。二人ともどこ行っとったんじゃ?」
「別に……」
菖蒲は無表情に撫子を見、ぶっきらぼうに答える。
「いただきます」
なんでもなさそうな表情でご飯を食べ始めた。
瑞は菖蒲の様子にふっと微笑む。
「……確かに、年頃の子って難しいですね」
「どうしたんじゃ急に」