• テキストサイズ

影の花

第10章 こどもの事情


「え? そんな、謝らなくても……菖蒲さんが持っててくれたんですね」

「まあ……それはそうなんだけど、その……」

居心地悪そうな菖蒲に、瑞はきょとんと小首を傾げる。

あまりにも曇りのない目でこちらを見る瑞に、菖蒲はぐっと言葉を飲み込む。

「もういいや別に……何も無いっす……」

自分の行為を説明出来るはずもなく、ふいと目を背けた。

続けて、ボソボソと呟く。

「あと、避けてる……つもりはなかったんだけど、あんたがそう感じてたなら、すみません」

「あ……いえ、そんな」

「その……あんたに、女の格好したとこ見られて嫌で、恥ずかしかった」

瑞は、いつも結わえている前髪を下ろし、口紅を塗っていた菖蒲の姿を思い出す。

菖蒲は、今日は結んである紫色の前髪を指先で跳ねさせながら呟いた。

「あの日、歌舞伎の常連客のとこに行ってたんだよね。おれ舞台子だから、贔屓にしてくれる客に陰間としての仕込みを頼んでんの」

「舞台子って?」

「……役者の仕事しながら、陰間して稼いでんの。って言っても、おれはどっちも見習いだけど。陰間はすぐに金が稼げるから……」

菖蒲の将来の夢を知り、瑞は彼をずっと近くに感じた。
/ 402ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp