第10章 こどもの事情
「え? そんな、謝らなくても……菖蒲さんが持っててくれたんですね」
「まあ……それはそうなんだけど、その……」
居心地悪そうな菖蒲に、瑞はきょとんと小首を傾げる。
あまりにも曇りのない目でこちらを見る瑞に、菖蒲はぐっと言葉を飲み込む。
「もういいや別に……何も無いっす……」
自分の行為を説明出来るはずもなく、ふいと目を背けた。
続けて、ボソボソと呟く。
「あと、避けてる……つもりはなかったんだけど、あんたがそう感じてたなら、すみません」
「あ……いえ、そんな」
「その……あんたに、女の格好したとこ見られて嫌で、恥ずかしかった」
瑞は、いつも結わえている前髪を下ろし、口紅を塗っていた菖蒲の姿を思い出す。
菖蒲は、今日は結んである紫色の前髪を指先で跳ねさせながら呟いた。
「あの日、歌舞伎の常連客のとこに行ってたんだよね。おれ舞台子だから、贔屓にしてくれる客に陰間としての仕込みを頼んでんの」
「舞台子って?」
「……役者の仕事しながら、陰間して稼いでんの。って言っても、おれはどっちも見習いだけど。陰間はすぐに金が稼げるから……」
菖蒲の将来の夢を知り、瑞は彼をずっと近くに感じた。