第10章 こどもの事情
「……随分と遅いな」
瑞は二階に上がったきり、戻ってくる気配がない。
萩が上を見て呟くと、
「また壁でも突き破られたら堪らんけのう。わしも見に行ってくるわ」
撫子はケラケラと笑って立ち上がった。
階段を上がる音がし、撫子の足音がゆっくりとこちらに近づいてくる。
「やっば……!」
「私どこかで落としてましたか? 全く気が付かなくて、拾ってくれてありがとうございます」
瑞は呑気に頭を下げる。
「いや、あ……だから……!」
「おーい瑞ー、菫ー。開けるぞー」
撫子が障子に手を掛けた。
「どげしたことか。二人ともおらんぞ」
部屋にはまだ温もりの残る布団だけを残し、もぬけの殻だった。
「菖蒲さ……」
「しーッ……!」
押し入れの中にギチギチに詰まった菖蒲と瑞。
菖蒲は反射的に押し入れに飛び込み、瑞を中に引っ張り込んだのだった。
「くそ、せめぇ……」
菖蒲は障子の隙間から撫子の様子を窺う。