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影の花

第10章 こどもの事情


「そう……かっこいい」

菫は優しげに微笑む瑞を見上げ、すぐに俯き、もじもじと口を開いた。

「お……お兄さんは新しい陰間の人ですか」

「いえ、私は下働きなんです。住み込みで掃除や家事をさせて頂いております」

「そ……そう、なんですね……」

菫は顔を赤く染めながら頷く。

「あの……あの、ぼく……菫、です」

瑞は目を瞬かせ、にこっと微笑んだ。

「これは申し遅れました、私は瑞です。よろしくお願いします」

「は……い!」

菫は表情を輝かせて頷く。

遠慮がちに口を開いた。

「良かったら、ぼくの部屋に来ませんか、まだいっぱい、かっこいい虫……」

瑞が嬉しそうに頷く寸前、

「……菫〜っ! ずるいよ!」

耐えかねた椿が窓から身を乗り出して叫んだ。

瑞は驚いて顔を上げる。

「椿さん!」

続いて、

「主様ー! 蒲公英もおります!」

「うっ!」

「菫おにいちゃん、ぼくも虫見たい〜!」

「ぐっ!」

蒲公英と朝顔も、椿の上に乗るように顔を見せ、手を振る。

「ちょっとお、邪魔! 重たいっ!」

「蒲公英さんに朝顔さんも……い、いつから見てたんですか?」

小さな窓から次々と顔を出すしんべこ達に瑞は驚きを隠せない。

「瑞、菫、今からそっちに行くから待っててよね!」

椿はオロオロと視線をさ迷わせる菫に宣言し、勢いよく部屋を飛び出す。

「蒲公英も参ります!」

「ぼくもぼくも行く〜!」

蒲公英と朝顔もそれに続く。

一人部屋に残された菖蒲は、不貞腐れたような顔で草双子を閉じる。

よく読み込まれてボロボロになった表紙には、瑞によく似た顔の青年が描かれていた。
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