第10章 こどもの事情
窓から庭を見下ろすと、確かに瑞の姿。
「あー、菫もいる」
そして、椿たちと同じくしんべこの少年、菫の姿が見えた。
菫は小柄な身体に小袖を着て虫籠を携え、やけにソワソワとしている。
目付きの悪い紫色の瞳はじっと壁を見ている。
肌は青白く、陽の光に照らされると透けるように見える。
顎程の高さで切りそろえた深緑色の髪と重い前髪が、彼の控えめな性格を物語っているようだった。
「何やってるんだろー」
「あ、主様が菫殿に気付かれたようですよ」
瑞は足を止めて菫を見る。
彼の視線の先に目をやり、
「あ」
菫の手には届かないであろう場所にいたカミキリ虫を取った。
菫はぽかんと口を開いて瑞を見つめる。
瑞は微笑み、
「どうぞ」
菫に視線を合わせると、白い斑点と青っぽい脚が魅力的なその虫を優しく手渡す。
「……う、うん……ありがとうございます」
菫は頭を下げ、急いで虫籠に入れる。
「虫取りですか? かっこいい虫を見つけましたね」
菫は表情を緩める。
瑞の言葉に深く頷いた。