第10章 こどもの事情
「……なんで菖蒲にいは瑞のこと嫌いなの?」
蒲公英と二人あやとりをして遊んでいた椿が、寝転がって草双子を読んでいる菖蒲に訊ねる。
両手であやとりの形を作り、それを蒲公英に差し出しながら首を傾げる。
菖蒲は椿の質問に面食らったような顔をし、ついと視線を逸らした。
お人形遊びをしていた朝顔も、不思議そうに菖蒲を見る。
「菖蒲おにいちゃんは瑞おにいちゃんが嫌いなの?」
「別に」
「でも避けてるんでしょー? 瑞気にしてたよ」
「菖蒲様、主様ほど心根の宜しい方はいらっしゃいませんよ」
蒲公英もあやとりの糸をつまみながら頷く。
「うるせぇ」
菖蒲は剥き出しのおでこに皺を作り、しんべこ達からゴロンと身体を背けた。
椿はそこで興味を失ったようで、あやとりに視線を戻す。
器用に指先を動かしあやを組み替え、田圃の形を作る。
「まー競争相手が減るからいいけどね、ボクは」
「競争? 椿おにいちゃん瑞おにいちゃんたちとかけっこしてるの?」
「んーっと、そうじゃなくてねえ……」
椿がどう説明しようか、と何気なく開け放していた窓に目線をやる。
短く叫んだ。
「あ! 瑞だあ」
「どこどこ!」
その声にしんべこ達は糸や人形を放り出し、一斉に窓に張り付いた。