第9章 大人の事情
椿との一夜を思い返し、ようやく嵌った障子を見、赤面しながら首を左右に振る。
「わわわわわ!? ダメですダメです! そんな……!」
「……中條で度々下ろす陰間の子って言葉がある」
「へ?」
瑞が顔を上げると、牡丹は深刻そうな面持ちで座り込んでいた。
瑞も座り直し、牡丹の話に耳を傾ける。
「これは、中条流という女医者の所で、陰間の子を身ごもった女が堕ろしに行くことを揶揄した言葉だ。おれ達陰間は、若い頃は男に買われ、歳を取ってからは女に買われる。大人になった男が女の相手をするんだ……当然だよな」
牡丹は目を伏せ、
「おれも……沢山女を相手にしてきたから。恨まれたりすることもあったと思う。仕事をしただけって言うのは簡単だけど、おれが売ったから相手が買うのか、相手が買うからおれが売るのか……分からないけど」
身体に彫られた鬼女の顔を撫でる。
女の嫉妬と恨みを表現したと言われる般若。
その顔は、大きな牙を見せつける激しい怒りと、眉根を寄せた悲しみの二つを併せ持っていた。