第9章 大人の事情
額に二本の長い角を生やした厳しい顔をした般若。
髪の毛を振り乱し、大口を開け、周囲に咲く牡丹の彫り物を睨み付けているようだった。
「こんなの背負ってたら客なんて付かないわよ〜、せっかく綺麗な顔してるのに」
「まー掘ったもんはしゃあないわな! 牡丹、身体洗い行くぞ」
撫子が牡丹の肩を叩き、連れ立って浴槽から上がる。
「ンもう」
瑞は二人が歩くのに従って人混みが割れるのを黙って見つめていた。
湯から上り、陰間茶屋に戻った四人。
「そんじゃあな、瑞」
「おやすみぃ、瑞ちゃん」
「はい、おやすみなさい」
瑞の部屋の前でそれぞれ自分の部屋へと別れる。
「牡丹さん?」
牡丹は部屋に戻らず、
「瑞……少しいいか」
思い詰めたような顔で瑞を呼び止めた。
「良いですよ。私の部屋で良いですか?」
瑞は相談事か何かと察しをつけ、牡丹を部屋に上げる。
「それで……どうし」
牡丹は浴衣の襟に手を掛け、大きく開いた。
顕になる上半身に、瑞はびくんと肩を跳ねさせた。