第9章 大人の事情
「ほーんと撫子ちゃんって子供みたいよねえ……ほら、アタシたちも行きましょ」
そう言い蘭が帯を解き始める。
鎖骨が顕になり、左の胸元に小さな黒子があるのが見えた。
蘭の身体は余分な肉がなく、腹は少しくびれて、脚はカモシカのように引き締まっている。
瑞は何故か顔が赤くなるのを感じ、目を逸らしながら自分の帯に手をかけた。
「撫子ちゃんたちどこかしら?」
出入り口の引き違い戸を開け、蘭と瑞も湯気の立ち昇る浴室に入る。
「こっちじゃ〜!」
「撫子さ」
瑞は声のする方に顔を向け、ごくりと唾を飲んだ。
にこにこと手を振る撫子。
しっかりと筋肉のついた褐色の肉体、幼少期に出来たであろう胸元の古傷。
比較的新しそうな傷も、腹や脛に刻み込まれている。
牡丹も撫子同様鍛えられた身体をしており、背中の中心には般若の面が掘られている。
般若の周辺の、肩、二の腕に掛けては名前通り牡丹の花が色とりどりに咲き乱れていた。
「……あれは陰間として終わりよ。ンも〜……頭痛くなっちゃう」
蘭が片手で頭を押さえた。
二人のことを知っている瑞からしても、かなりの迫力がある。
そこだけすっと人波が引いていることからも、皆同じ感想を持っているのだろう。
牡丹がきょとんと首を傾げてその場に立ち竦む瑞を見る。
「入らないのか」
「アンタ達が怖いのよ、アンタ達が。なんなのよむさ苦しい男同士で固まっちゃって。瑞ちゃん大丈夫よ、アタシと一緒に入りましょ」
「すまん……怖かったか、なら上がる……」
「いっ、いえ! そんな!」
「わしが怖いんか? やっぱこの傷かのう」
撫子が腕を伸ばし、二の腕に付いた傷をなぞる。
「いえ……あの……」
「どっちも怖いわよ」
「……蘭も充分怖い」
「あ? 何かしらあ、牡丹ちゃん」
蘭は牡丹の言葉を笑顔でねじ伏せ、湯船に腰を下ろした。