第9章 大人の事情
「私、何か気に障ることをしましたかね……」
「あのくらいの子どもは色々と感じやすいけえ。難しい年頃なんじゃろ」
「……お前はあのくらいの頃から単純だったぞ」
玄関前で駄弁る三人の声に、中から蘭がひょっこりと顔を出した。
「なーにやってんの? そんなとこで立ち話なんかして」
「みんなで一風呂浴びに行こうち思うて。蘭ちゃんも行かんか?」
「えアタシぃ? そうねえ……瑞ちゃんも行くの?」
「はい、ここに来てから初めて行くので楽しみです」
「……なら行こうかしら。ちょっと待っててちょうだい、準備してくるわ!」
元気よく玄関の戸を開け、
「牡丹ちゃん何突っ立ってんのよ、アンタも行くんでしょ! ほら行くわよ」
立ち竦んでいる牡丹の腕を引っ掴ん
む。
元気よく茶屋に入ったかと思うと、
「お待たせぇ〜」
瞬く間に浴衣に着替え二人の前に戻ってきた。
牡丹も浴衣姿で頷く。
「それじゃ行くか!」
銭湯に向かって意気揚々と歩き出した。
銭湯に着き、入り口で履物を脱ぐ。
蘭は厚底の重ね草履、撫子は雪駄、牡丹は竹皮で出来た草履と、それぞれの趣味の物を置き、瑞もそれに倣って履物を脱ぐ。
番台に料金を手渡し、脱衣場に足を踏み入れた。
見慣れぬ光景にキョロキョロする瑞と違い、撫子は威勢よく服を脱ぎ捨てる。
脱いだ服を籠に放り込み、すっぽんぽんで牡丹の肩を組んだ。
「牡丹行くぞ〜!」
「……うん」
ぽかんとする瑞と呆れ顔の蘭を置き、撫子は牡丹を連れて浴室に突き進んでいく。