第8章 花落ちる前に
椿はゆっくりと身体を上げ、今まで寄り添っていた背中に無表情で手を振り下ろした。
「痛いッ!?」
瑞は一発で目を覚まし、慌てて体を起こす。
寝ぼけ半分で椿を見る。
「ど、どうしましたか……」
「もう! 瑞寝るの早すぎ! 一緒の布団に入ってるのに、こーんなスンッと寝る!? 普通!」
椿は桃色の頬を更に赤くして瑞を怒る。
寝起きの上、椿の真意を理解できない瑞はただただ説経を浴びせられる。
椿はそんな瑞に気が付き、ぐすっと鼻を啜った。
「もっとドキドキしてよ……」
「ドキドキ……と言われても」
「うん……せっかく同じ布団で寝てるんだよ? 緊張して寝れなかったり、興奮しちゃうとか……?」
椿が流し目で瑞を見る。
ようやく椿の意図を理解した瑞は、
「ああ、なるほど。でも椿さんはまだ子どもですし、私は一緒に寝てもそのような気持ちは抱きかねますね」
優しい声色で完全に否定した。
椿は真顔になり、
「……あのねえ、何回も言ってるけどボク子どもじゃないよ?」
布団の上に膝立ちになり、手を付き、挑発的に瑞を見上げる。
見下ろす瑞の視界に、開いた襟から白い胸元が飛び込んで来る。
凹凸のない胸板の上に、頬と同じ桜色をした突起がちらりと覗いた。