第8章 花落ちる前に
「確かにまだお客さんは取ったことないけど、陰間としての修行はいーっぱいしてるんだから……なんにもわかんない瑞より、色んなこと知ってるよ?」
「な、何を……」
「だからぁ……こういうこと?」
椿はクスクスと笑い、瑞が見ていた胸元へと、瑞の手を運んだ。
寝間着に手を突っ込んだ形になり、固まる瑞。
瑞の手の平に、椿のキメ細かい素肌が吸い付いた。
「わあああぁああ!」
瑞は叫ぶと、金縛りが解けたように真上に飛び上がる。
ゴロゴロと転がり布団から逃げ出す。
「ダメですダメですダメです! そんな!」
瑞は全力で首を横に振り拒む。
椿が瑞の浴衣に手をかけた。
「うるさいよ、大人しくして!」
「しません! いけません! 寝ましょうよ椿さん!」
自分の身体を抱き締める瑞、息が荒くなる椿。
両者一歩も譲らず、戦いは拮抗する。
「瑞は天井のシミでも数えてなよ!」
「何かが始まりそうだから数えません!」
二人は暫く言い争い、
「あーッ!」
「わー!」
揉みくちゃの団子状態になって部屋を軽がる。
勢いよく障子を突き破った。
「何してんの!?」
物音に駆け付けた桔梗が声を上げた。
障子は外れ、組子は折れ、障子紙には大きな穴。
瑞は頭を下にしてひっくり返り、椿は床に倒れ込んでいる。
「びっくりしたあ……」
「……すみません……」