第8章 花落ちる前に
夜、瑞の部屋に訪れた椿。
寝間着姿の椿と同じく、寝支度を終えた瑞は彼を快く招き入れた。
瑞は既に敷いてある布団の横にちょこんと座り、首を傾げる。
「椿さん。どうされましたか、こんな時間に。厠ですか」
「違うよ!」
椿は即座に否定し、瑞にずいっと詰め寄る。
頬を膨らませ、上目遣いに睨みつけた。
「蒲公英から聞いたよ。瑞、蒲公英と一緒に寝たんでしょ? しかも同じ布団で」
「一緒に寝たと言っても……一度だけで」
「寝たんでしょ!」
「はい」
椿は大きく溜息をつき、
「だからボクも一緒に寝る。同じ布団で」
「そ、それは構いませんが」
瑞の布団にいそいそと潜り込む。
「瑞も早く入ってよ」
瑞は突然の来客に呆気に取られながらも、言われるがまま隣に寝転がる。
掛け布団を引き寄せた。
「……それじゃあ、おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
少しして、二人の体温で布団がじんわりと温もっていく。
微睡むような心地良さに包まれる。
椿はもぞもぞと身体を横向きにし、暗闇の中で瑞を見つめる。
「……あのね、蒲公英がね。瑞が一緒の布団で一夜を明かしたのに、手を出してこなかったって感動してたの。今のご主人様と違って、せいれん? な人だって」
瑞からの返事は無い。
椿は目線を下にし、瑞の身体に自分の身体をくっつける。
「でも……ボクは瑞になら手出されてもいいよ。まだ会ったばっかだけど、このボクの貴重な初めてをあげても……」
瑞の背中に顔を寄せ、手を這わせ返事を待つ。
「……瑞?」
そのうち、瑞から気持ちよさそうな寝息が聞こえ始めた。