第7章 逆転負け
蘭が驚いたように瑞の顔を見ると、真面目な顔で見上げている。
蘭は一瞬キョトンとし、瑞の背中をバシンと平手で叩いた。
「うふふ! やだ〜もう、アタシそういう意味で言ったんじゃないの!」
「ぶっ!」
「アタシが瑞ちゃんに甘えてどうすんのよ! もう〜」
瑞は思ったよりも強い衝撃を受けた背中を擦りながら、
「出過ぎた言葉ですが、本気ですよ。蘭さんはいつも年長者としての自覚を強く持ち、皆さんの姉貴分のように頑張っておられます。たまには気を抜く時も必要じゃありませんか」
「姉貴じゃなくて兄貴よアタシ……」
蘭は苦笑し、黙って煙を吸う。
縁側からゆっくりと腰を上げた。
「いつかほんとに甘えに行っちゃうわよ。ありがとうね、瑞ちゃん」
瑞の頭をぽんぽんと叩き、去り際に小さなポチ袋を手渡した。
「それあげるわ、愚痴に付き合ってくれてありがとう。みんなには内緒よ、中にお菓子入ってるから」
「はい。こちらこそありがとうございます」
ぺこりとお辞儀をする瑞に片手をひらひらと振る。
中庭から少し離れた所で立ち止まり、壁際を背にする。
目の下を僅かに赤くし、呟いた。
「……年甲斐もなく少しドキッとしちゃったわよ……」