第7章 逆転負け
「いえいえ」
二人が喋っている間に身を低くし、その後ろをコソコソと通り抜けようとする竜胆と桔梗。
蘭が見逃すはずもなく眼光を鋭くし、
「何逃げようとしてんの」
「あたっ!」
「いッてえ!」
二人の頭に拳を落とした。
「蘭ちゃん痛いなぁ〜、さっきこそ俺らの身体大事にせえ言うたばっかりやんけ……」
「そうだよなあ! 蘭さん! おれらの身体っていうのは大事な商ひ」
蘭が恐ろしい顔で二人を見下ろすのに気が付いた桔梗は口を噤む。
「うん……ちょっとおれ、袖汚しちゃったから、洗ってこようかな……」
竜胆もくるっと背を向ける。
「俺も首に傷薬塗っとこかなあ……ほんならな、兄やん」
その場から逃げていく二人を見送り、蘭はふーっとため息をついた。
「瑞ちゃん、これから暇? 一服付き合ってくれないかしら」
「はい」
二人で中庭に行き、落縁に腰を下ろす。
蘭は砧形の煙管を咥える。
「ほんと、困っちゃうわよねえ……あの子たちもそうだけど、意識の低い陰間が多くて困っちゃうわ。みんなアタシに頼りっぱなしよ」
「蘭さんがいるとついつい甘えてしまうんでしょうね。でも、いざという時には皆さんしっかり頑張っていると思いますよ。私からしたら皆さんとても立派です」
蘭は小さく頷く。
「そうねえ……それは分かっちゃいるんだけど、あんまり甘えられても困っちゃうわよ」
伏し目がちに煙を吐いた。
「はー……」
瑞は蘭を見つめ、何やら考え込む。
口を開いた。
「私は知っての通り、何も覚えていませんし、蘭さんのように陰間としての経験もありませんが……私で良ければ、蘭さんも甘えてみませんか? 少しは気が晴れるかもしれません」