第7章 逆転負け
「お帰りなさい、お疲れ様でした」
瑞は仕事から帰ってきた竜胆と桔梗を出迎え、頭を下げる。
二人は普段と違いバッチリと化粧を施し、髪飾りを身につけ、女性そのものの出で立ちに化けていた。
竜胆は切長の目尻に朱を入れ、長い髪を結い上げ金色の櫛で飾り立てている。
桔梗も八重歯の可愛らしい口元に紅を差し、椿油で短髪を艶っぽく光らせていた。
竜胆が瑞に力無く笑て見せる。
「おお、バッチリ稼いできたでえ……おかげさんで後ろが痛くて堪らんわ。桔梗はまた例のお姉やんか?」
隣の桔梗も、疲れた様子で頷く。
「ああ……おれは前が痛えよ……何回出させたら気が済むんだか。瑞さん、今日はおれ精がつくものが食いてえな」
瑞に無邪気に擦り寄った。
「そうですねえ……」
「俺はサッパリしたもんがええなあ……」
「あら」
その場に一人の壮年の男が通りがかる。
壮年と言っても見た目も中身も年若い。
萩より少し年下であろう彼は整った顔に薄化粧を施し、品の良い紫色の振袖から香の匂いを漂わせていた。
ハッキリとした目鼻立ち、少し大きな口元、上向いた睫毛、紫色の瞳、白粉で塗った肌。
どこか異国情緒を感じさせる美青年だった。
捻れた桃色の髪を短く整えており、綺麗な額と項を晒している。
身体は男性として育ち切り身長も高いが、しずしずとした歩き方を始めとした立ち振る舞いも話し言葉も女性らしい。
そんな彼の顔色がみるみるうちに変わり、勢いよく竜胆を指さした。
「……アンタ達い! ちょっとぉお! 竜胆アンタ首に噛み跡あるじゃないのよッ、普段からそんな客を逃がすなかわせって言ってるでしょ!」
「げっ! よ、よー見えるなあ蘭さん……」
次に力強く桔梗を指さす。
「アタシ達は商売人、身体は売り物なのよ、上手くかわさないでどうするのよ! 桔梗は頬に口紅の痕!」
「やっべ〜……、気づかんかった、すまん蘭さん!」
「なんでそんなトコについてて気づかないのッ……て、いやあああああ! 今袖で紅を拭ったわねアンタ!」
「元気ですねえ皆さん……」
「動くなっコノヤロ……って、あらヤダ瑞ちゃん! いたの〜!? 恥ずかしい所見られちゃったわねえ!」
蘭は声を高くし、くねくねと身体を捩る。