第41章 青天の霹靂
「私がもしここにいなければ、あの人は死ななかったんじゃって、おも、思うんです……っ」
夕顔の頭に血が上る。
引きこもるようになってからの夜顔、稼ぎが悪い昼顔、主を怖がる朝顔、そして自分は酷く辛く当たられたものだった。
冷遇された記憶が蘇り、そんな男の為にさめざめと泣く瑞にカッとする。
「あんな悪人、死んでも何も……!」
声を張って、口を噤んだ。
「……じゃああの日、てめえを引き止めなかったオレも同罪だ」
瑞は驚いた顔で夕顔を見る。
「てめえが寝床抜け出したの、気付いてたんだよ。てめえの事だから、なんか考えがあると思ったから、止めなかったんだ」
夕顔は瑞を正面から見つめ返し、腕を背に回した。
瑞を強く抱き締める。
「だから……お前が気にするなら、オレも一緒に背負ってやるから! もう泣くんじゃねえよ」
瑞は一瞬きょとんとし、ぶわっと涙を溢れさせた。
「な、泣くんじゃねえっつってんだろ!」
「無理ですう〜……嬉しかっだ、がらっ……」
肩を揺らして泣く瑞の手が夕顔の襟元を持つ。
感情を露わにする瑞が可愛らしく、その上ぎゅうっと抱きつかれれば、夕顔も大人しくなる。
「おう……」
背中を撫でながら、小さく震える唇に唇を重ねようとそっと顔を寄せた。
「夕、そういう時は泣いてもいいって言うもんだよ」
「うおおおッ!?」
突然現れた夜顔に驚き叫べば、
「夕顔おにいちゃん、やっぱり瑞おにいちゃんと仲良しさんなんだあ」
「なーんか抜け駆けっぽいなあ」
朝顔と昼顔の弟二人も瑞と夕顔に視線を注いでいた。
夕顔は耳まで真っ赤に染める。
「ち……散れッ、この野郎!」
兄弟たちに対しては珍しく語気荒く追い払い、はーはーと肩で息をする。
瑞はその様子にぽかんとした後、くすくすと笑い始めた。
目元を赤く腫らした顔を綻ばせた。
「もう大丈夫です、泣きませんっ」
夕顔はボリボリと頭を搔き、
「……なら良かったわ」
多少残念そうに呟いた。