第41章 青天の霹靂
瑞は男の異変に気が付く。
「大丈夫ですかッ!?」
老いた彼の元に駆け寄れば、顔面蒼白で、膝が笑っている。
片腕を自分の肩に回す。
「きさ、ま……」
男の目に瑞の横顔が映る。
瑞の目はどこまでも真っ直ぐで、何故かその顔に遠い昔の事を思い出していた。
母親に抱かれたこと、友人と笑いあったこと、愛した人がいたこと。
これが俗に言う走馬灯なのだろうと分かりながら、影の花の主人になってからのことを思う。
金を稼げなくなった者への苛立ち、自分の意に背く者への怒り。
儚い蕾のような少年たちが大人へと変れば、玩具が壊れた時のように興味を失った。
瑞に言った言葉は、全て自分への戒めだと感じた。
陰間たちの稼ぎで建てた立派な家も、贅沢な暮らしにも、感謝したことは無かった。
瑞はそんなことを知る由もなく、ただ目の前で苦しむ老人を助けようと障子を開いた。
「誰か、お医者様を……っ」
そこで廊下に勢揃いしている陰間たちに気づき、大きく仰け反る。
「うわああッ!?」
ひっくり返りそうになる瑞を支える細い手。
「だっだ、大丈夫……?」
濡れ羽色の長い髪、綺麗に伸びた睫毛。
夜顔は瑞の体を抱き留め、心配そうに訊ねる。
男の目が大きく開く。
「夜顔……部屋から出たのか……」
息も途切れ途切れに呟けば、撫子が無表情に言った。
「そうじゃ。客に脅えて、あんたを恐れて、一歩も部屋から出んようになった夜顔も、そこの瑞のおかげで外まで出れるようになったんじゃ」
「……瑞、旦那を貸せ。俺が医者まで連れて行こう」
萩が瑞の腕に担がれた男を奪い、力強く背負い歩き始める。
主人は萩の背に揺られながら、ぽつりと零した。
「大きくなった、な」
「旦那……俺はもうあんたの愛した少年じゃねえ。けど、あの頃のままじゃこうして背負うことは出来なかっただろ」
「ああ……そうだな……」
男は静かに頷き、目を伏せた。