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影の花

第41章 青天の霹靂


瑞はそこで障子を開いた。

しっかりと床を踏み締めて立ち、驚いた顔の二人を見る。

蒲公英は目を丸くして、ぽかんと口を開く。

「あ……! 主、さ……」

「なんだお前は……」

瑞は自分でも驚くような大それた行動に手足を震わせながら、痩せ衰えた男を見る。

「た……蒲公英さんを、離してください……」

「ああ、思い出したぞ。下働きとか言ってここに潜り込み、儂の陰間たちを妙な目で見ている男だな」

年老いて痩せた男の眼窩は落窪んでいたが、目力だけはやたらと強く、ギラギラと光っていた。

蒲公英は男の裾を掴む。

「違いますっ、瑞様はそんなこと……」

「蒲公英は黙っていろ!」

「うッ!」

男は蒲公英の手を力任せに振り払い、近くにあったはたきを掴む。

怒りに任せて振りあげようとした時、瑞は蒲公英の前に滑り込んだ。

「蒲公英さん!」

急いで抱き締め、男を睨む。

蒲公英は瑞の腕の中で、初めて同衾した夜よりも激しい胸の高鳴りを覚えていた。

老いた主人は手を止め、瑞をじろじろと睨めつける。

「拾われた身分で逆上せおって……。蒲公英に情でも湧いたか? 戯れに哀れんでみたつもりか? この薄汚い鼠が!」

肩をいからせて、口汚い言葉で罵る。

「お前は……誰の家に住み、飯を食わさせて貰っているか今一度考えてみろ、恥知らずめ!」

「確かに私は、何も知らず、何も覚えておりません。皆様のように、陰間としての仕事も出来ません」

瑞は一つ一つ言葉を紡ぎ、陰間の顔を思い返す。

「でも、暴力を振るったり、閉じ込めたり、辛く当たったり……貴方のやり方は間違っています、私は許せません!」

ハッキリと言い切った。

「主様……」

蒲公英の目は瑞に向き、口から自然と零れた。
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