第41章 青天の霹靂
それから真ん丸だった月が欠け、細く変わり、また満ち始める頃。
瑞が座敷に入ると、陰間たちに囲まれている蒲公英が目に入った。
蒲公英は綺麗な着物を着て、髪には簪、唇には口紅とめかしこんでいる。
瑞に気がつくと、視線を逸らした。
蒲公英の前に立つ萩が優しく背中を叩く。
「とうとう今日だな。蒲公英、気負わずに行けよ。旦那も経験は多いんだ、そう悪くすることは無いからな」
「ボクがうんと可愛くしてあげるからねっ。大丈夫だよ、すぐに終わるからね」
桜もうんうんと頷く。
蒲公英の格好や口々に励ます陰間たちの話からも、蒲公英が今日店主に抱かれることはすぐに分かった。
優しく言う陰間たちを尻目に、薊は肩を揺らして笑う。
「ケツが切れようが痔になろうがここには慣れてるやつがわんさかいるからな、安心していいぜ」
「何言ってんのよ!」
蘭が薊の背中を叩こうとすれば、身体を翻して避け、蒲公英に視線を合わせた。
蒲公英の肩をぽんぽんと叩く。
「ど〜しても我慢出来ない時は叫べ。素知らぬ顔して止めに行ってやる。俺みてぇな憎まれ者は今更何しても変わんねえからなぁ、情事をぶち壊す役には打って付けだろ」
「意外と優しいんだな、薊さんは」
睡蓮が感心したように呟くと、薊は目の端で軽く睨む。
「いっちょ前の口聞くんじゃねえよ、眼鏡。今日の夜はどうっしようもないくらいにやる事がねえからな。暇つぶしにちょうど良さそうっつうだけだ」
「めがっ……」
薊はくつくつと笑い、蒲公英の肩から手を離す。
「……ま、てきとうにやれや。お前さんなら何とかなるだろ」
「はい。ありがとうございます。蒲公英、立派に役目を果たして参ります!」
「戦に行く訳じゃねえんだから……」
わいわいと盛り上がる陰間たちを目に映しながら、瑞は薄く唇を噛んだ。