第41章 青天の霹靂
瑞は蒲公英を抱こうと伸ばした手を、ゆっくりと引っ込め、伏し目をして頷いた。
「……ごめんなさい、蒲公英さん」
「え……?」
「私は、今日は蒲公英さんと身体を重ねることは出来ません」
蒲公英が起き上がれば、瑞は視線を少しだけ上げて続ける。
「私は蒲公英さん以外の方ともこのような行為に及んでおります」
「そ、それの何がいけないのです? ここの皆様は陰間です、当然主様以外の方ともまぐわっているではありませんか。同じですよ、それに、蒲公英はそんなこと全く気にしません。ただただ主様が好きなのです」
「……蒲公英さんは、私と身体を重ねようと重ねまいと、ここのご主人に抱かれるのでしょう。これから私とする事に意味などありますか」
蒲公英は瑞の言葉に一瞬狼狽えるも、次の瞬間には迷いなく答える。
「あります、蒲公英は、主様が大好きなのですから……! 今日の思い出があれば、ずっと、どんなときも惨めでは無くなるのです!」
「それでも……、私は現状は何も変わらないと分かっていながら蒲公英さんとまぐわうことは出来ません。何の責任も取らず、大切な初めては奪えません。蒲公英さんの思いに付け込むようで、どうにも狡く思えるのです」
瑞は押し黙る蒲公英に向かって、頭を垂れた。
「蒲公英さん、ごめんなさい……」
蒲公英は深く頭を下げる姿から、瑞の決意の硬さを感じる。
なんとか口を開き、
「……謝らないでください。主様が蒲公英のことをそんなにも真剣に考えて下さったなんて、これ以上ない幸せです」
瑞の元に寄り添う。
懸命に言葉を紡ぎながら、大粒の涙を零した。
「でも、でも……せめて、また、同じ布団で、朝まで一緒にいてくれませんか……」
涙ながらに言われた言葉に瑞は頷き、蒲公英を抱きしめた。