第41章 青天の霹靂
萩は瑞の肩を抱き、頬を伝う涙を指先で拭う。
瑞の涙が止まる。
潤んだ目を見開いて萩を見れば、萩は優しく笑って瑞の頭を撫でた。
「あいつらもな。お前が知らないだけで、俺らは生きているのが楽しくなった。買われるだけの存在じゃないと、ようやく分かった気がする」
「萩さん……」
思いもかけない言葉に瑞が頬染めていると、
「俺はお前が愛しい。憎いくらいだ、こんな相談してきやがって」
萩はその頬をむにゅっと抓った。
「ひたた……!」
軽く笑って手を離し、真面目な顔で目線を下げる。
「俺は旦那と陰間たちに生かされている身だ、悪いが、旦那の意向を無視してお前に蒲公英とまぐわえとは言えない」
「分かりました、ありがとうございます。萩さんの立場も考えず、答えづらい質問をしてしまい申し訳ありませんでした」
瑞が点頭けば、萩は苦しげに眉を寄せて続けた。
「……蒲公英はまだガキだ。恋愛感情と尊敬の念を履き違えているかもしれない。瑞が自分より幼い奴の言葉に本気になることで、蒲公英が幸せになるとは限らない。突き放す優しさもあると思う」
「はい」
「たとえ一度求めに応じてやっても、蒲公英が旦那や客と身体を重ねる日が来なくなる訳じゃない。その日限りのまぐわいは蒲公英にとっては大きな意味を持つだろうが、瑞の自己満足と言えばそれまでだ」
瑞は真剣な表情で頷き、萩を見据える。
「瑞が何をしようとしまいと、何も変わらないかもしれない」
萩はハッキリとした声色で言い、瑞の肩を叩いた。
「でも、自分で決めるんだ」
瑞は迷いを断ち切り、
「はい」
真っ直ぐに頷いた。