第41章 青天の霹靂
「う〜……負けました」
瑞はううんと唸り、投了する。
「でも瑞、なかなか筋がええぞ」
撫子は楽しそうに笑い、碁盤に目を落とす。
「けどこの手がいかんかったの」
「なるほど……囲碁はなかなか奥深いですねえ」
二人で話し合っていると、
「主様」
蒲公英が声をかけた。
蒲公英の表情は慕っている瑞を前にしても優れない。
どこか暗く、鎮痛な目で一心に瑞を見つめていた。
撫子はただならぬ空気を察する。
「おう蒲公英。わしは席外した方がいいかの」
「撫子さん、かたじけないです」
笑って腰を上げ、二人にひらりと手を振った。
蒲公英は瑞の前で正座をする。
両膝に拳を置き、真っ直ぐに瑞の顔を見つめた。
「主様。お願いがあります」
「どうしたんですか? 私に出来ることなら力になりますよ」
蒲公英は瑞の言葉に一瞬目を潤ませるも、すぐにきっと表情を引き締めた。
「……蒲公英はきっと、そう遠くないうちに水揚げされます。前の主様からそのような話がありました。恐らくですが、前の主様の知り合いか、ここの常連客に買われるのです」
淡々と話される内容に、瑞は言葉を失う。
蒲公英が陰間である以上当然の事と分かっていながら、目の前の彼とそれが結び付かず、言葉が出ない。
「そして、それに備えて前の主様に抱かれます。お客様を受け入れる準備という名目で、前の主様に初めてを捧げなければなりません」
蒲公英はそこで瑞の瞳を見つめた。
目尻の切れ、上向きに跳ねた意思の強そうな目に瑞を映す。
「蒲公英は、陰間になることに迷いはありません。ですが……我儘を言わせて頂けるのならば、初めてまぐわうのは主様が良いのです。主様の思い出を頂ければ、この先怖いものなど何一つありません。蒲公英は、主様のお情けを頂戴したく思っております」
蒲公英は瑞に向かって頭を下げ、すっくと立ち上がった。
「主様、蒲公英を少しでも哀れんで頂けるのならば。次の月が満ちる晩に、蒲公英の部屋に来てください。蒲公英は待っております」
瑞はそれに答えられないまま、蒲公英の小さな背中を見送った。