第40章 傷口に塩
撫子はそんな瑞に気が付くと、にやりと笑う。
「ん? なんじゃ瑞、胸見ただけで顔赤くしよんか」
「あッ……いや、その……!」
「可愛いのう。食ってしまいたくなるわ」
撫子は背中から瑞を抱き締め、太い腕を前に回す。
上半身にぎゅっと絡む腕に、瑞は慌てふためく。
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ、私が撫子さんに触るんでしょう!?」
「おお、そうじゃったそうじゃった。すまんの、瑞が可愛くてな」
あっさりと腕を解いて笑う撫子に瑞は眉を寄せつつ、軟膏の蓋を開く。
「もう……それじゃあ、塗りますね……?」
「おう」
一声かけ、撫子の身体に手を伸ばす。
無防備な身体に指先が近づくのを意識し、撫子はぴくんと眉を跳ねさせた。
粘ついた膏薬が付いた指が傷痕に優しく触れる。
「はッ……」
撫子の口端から声が漏れた。
その声は甘く、切なそうに震えている。
変色した痕に触れられると、真新しい物では微かな痛みを孕み、古い物では過去をなぞられるようで、何とも言えない感覚だった。
遠い昔に主に折檻された時の記憶が、陰間だと馬鹿にされて喧嘩をした日の悔しさが、溶けていくようで。
同じように傷に触れてきた蓮華の手つきは遠慮がなく、特有のねちっこさが不愉快で最終的に投げ飛ばしてしまったが、瑞のそれは擽ったくも心地が良い。
そして、不思議と下半身が疼き始めていた。
撫子は脚を組みかえ、少し潤んだ目で瑞を見る。