第40章 傷口に塩
瑞は自分の部屋に入ると、箪笥から薬を取り出す。
「はいどうぞ」
手渡すと、撫子は瑞をじっと見下ろす。
「……瑞は塗ってくれんのか?」
「え、でも撫子さん人から傷跡を触られるのは苦手なんじゃないですか?」
「苦手っちゅうか、ゾワゾワするんじゃ……。体だけじゃなくて、心も落ち着かんくなって変な声が出るけ、梅の前じゃ嫌やっただけじゃ」
撫子は伏し目がちに言い、瑞の目を見つめる。
大きな手で瑞の手を掴んだ。
「でもな、瑞には触れて欲しいち思うとったんじゃ。さっき薬塗ってくれるち言うた、ずっと前よかじゃ」
「え……あ……っ」
「わしの傷、触ってくれるか?」
瑞は戸惑いに顔を赤くするも、こくりと頷いた。
撫子は無地の着物を脱ぎ、上半身を露わにする。
引き締まった身体に割れた腹筋が見事な物だが、やはりそれに刻み込まれた数多の傷に目が行く。
細い引っかき傷は背中にもあり、梅の言う通り女性に付けられた物なのかもしれないな、と瑞はぼんやりと思う。
重ねて、豪胆な男っぷりが目立つ撫子も、陰間である以上男性に組み敷かれることもあったのだろうかとも考える。
瑞の胸がザワつく反面、邪な妄想に顔が熱くなった。