第40章 傷口に塩
「それにしても、凄い傷ですねえ。こんなに沢山」
瑞は畳の上で仰向けになって寝る撫子を見下ろし、ぽつりと呟く。
特徴的な左目の傷から、開いた襟から覗く肩の引っ掻き傷。
腕や脚にも無数の傷や痣が刻み込まれている。
白っぽく変わった古傷から、まだ怪我をしたばかりであろう瘡蓋。
撫子の逞しい身体には、赤茶色に変色した切り傷から打撲痕まで、多種多様な痕が残っていた。
それを聞いていた梅も頷き、困り眉を更に下げて撫子を見る。
「正義感が強いってこともありますけど、何より喧嘩っ早いんです、撫子さん」
瑞はそれを聞いて小首を傾げる。
撫子と言えばざっくばらんで豪快な男で、多少繊細さに欠ける面もあるが、それもまた彼の度量の大きさを示す個性だろう。
「そんな印象はありませんが」
「わたし達には優しいんですが……腕っ節も強いですしね」
そう言われ、瑞はふむと頷く。
浅黒い肌、太い二の腕に盛り上がった肩、引き締まった両脚。
しげしげと眺めれば、向こう脛に付いた切り傷を見つける。
「これなんて刀傷じゃないですか?」
「撫子さんは相手がどんな人でも向かっていくので」
「ではこれも?」
瑞が脇腹に入った太い傷を指差す。
「これは、女の子にでも刺されたんじゃないですか」
「えっ!?」
「冗談です。でもこの引っかき傷なんかは……」
梅が肩の掻き傷に触れようとすると、近付く指先の気配に撫子が眉を寄せた。
むくっと起き上がり、訝しそうに二人を見る。