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影の花

第39章 枯葉


蓮華はこほんと咳払いをした。

「あ、ああ……いや、この子はお忍びでここに来ているからね、顔がバレちゃ不味いのさ……うん。強く言ってすまないね」

「……いえ、それはいいですが。蓮華さん、何か私に隠していませんか」

「え? 何を?」

微妙な沈黙が流れ、蓮華はいそいそと服を着替える。

「それじゃ、そろそろ僕は帰ろうかな」

「ここが蓮華さんの部屋ですよ……」

不自然に黙る蓮華に瑞は顔を顰め、もう一度風呂敷に手を伸ばした。

蓮華は大慌てで瑞を止める。

「だから取っちゃダメだって!」

「蓮華さん、この方本当にお客様なんですか!?」

「躑躅〜!」

その時勢いよく障子が開き、半泣きの桃が飛び込んで来る。

風呂敷に顔を覆われた躑躅に縋り付いた。

「桃さ、躑躅さんッ!?」

瑞は目を丸くする。

畳の上に倒れた青年の真っ白な肌、よく手入れされた爪に細い身体。

唖然としていると、

「悪い、桃がいつもの時間に躑躅が帰ってこないって落ち着かなくてな……一緒に探しに来たんだが」

続いて萩が入ってくる。

萩は辺りを見渡し、眉を顰めた。

「何だこの有様は……」

全裸で床に転がる躑躅、わんわんと泣き喚く桃、茫然自失の瑞と蓮華。

濡れた風呂敷を摘み上げて首を捻っていると、不自然に置かれた湯のみが目に付いた。

「ん?」

「あっ、それは……」

萩は湯のみのそこに微量に残った液体を嗅ぎ、一口舐め、きりっとした眉を跳ねさせた。

「お、おい蓮華これ……」

「萩くん……すぐに分かるなんて昔は相当遊んでいたね?」

「誤魔化すんじゃねえ!」

ぱちんと片目を閉じる蓮華に、萩の雷が落ちた。

「……汚らわしい人、そこの編笠を取ってくださいませんか」

「う、うん! はいどうぞ」

「どうも」

あの一件以来、躑躅に対して完全に頭が上がらなくなった蓮華。

外出する躑躅にさっと編笠を手渡し、遠慮がちに視線を上げる。

「それより……その呼び方はずっとそのままなのかな……」

「はい?」

「ううん、何にも……」
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