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影の花

第39章 枯葉


それからして。

瑞は中心から離れた場所にある躑躅の部屋を訪れていた。

「躑躅さん、こんにちは。少し宜しいでしょうか」

躑躅は部屋から顔を出し、瑞の声に不思議そうにする。

「瑞さん。どうされましたか」

「躑躅さん、この前は素敵な本を貸して下さりありがとうございました。先読み終えたのですが、感想を教えて欲しいと言われていたので」

「あ……」

躑躅の唇が驚いたように開き、きゅっと引き結ばれる。

「ああ、覚えていてくれたのですね」

淡々と返事をすると、瑞ははにかみ笑いを零す。

「ええ。その事なんですが、なにぶん私は説明に自信がなくて……」

言いながら、持参した本を前に突き出す。

「躑躅さんはもう読まれましたか? 宜しければ、私が文面を読み上げるので、一緒に楽しむという形ではいかがでしょうか」

躑躅は指先で本に触れ、

「は……はい」

こくりと頷いた。

「……そこで彼はふと気が付いた。あの時のあれはもしかして……」

瑞と二人きりの空間。

躑躅は瑞の音読を聞きながら、幸せそうに表情を緩める。

いつもどこか寒々としていた心に温かい空気が入り、寒さを忘れさせてくれるようだった。
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