第38章 飽和
桜は横を向き、
「やだ! そんなの可哀想だもん」
「可哀想なんかじゃないよ、愛ゆえにさ」
藤が柔らかく笑えば、桜は驚いた顔で視線を戻す。
「藤くん今愛って言った!?」
「ああ言ったよ。何か問題があるのかな」
藤はにこりとし、桜を見つめ返す。
「問題はないけど……っ」
「けど?」
「瑞を見初めたのはボクだもん! なんか最近みんな忘れてないっ!?」
「それとこれが僕に何の関係があるのかな」
「ボク藤くんのそういうところやだ!」
わーわーと言い争う二人を視界の端に捕えた青年。
彼らに向かってにこりと微笑みかけた。
「盛り上がっていますね。何のお話ですか?」
桜と藤は勢いよく彼の方を振り返る。
「瑞の話っ!」
「瑞さんの話さ」
瑞は目を丸くする。
「え、え?」
戸惑っていると、桜がずいっと距離を詰める。
桜は大きな瞳で瑞を上目に見、胸元に指を立てる。
身体を揺らす瑞に、艶っぽく笑う。
指先で肌の上をつつっと伝い、薄く唇を開いた。