第37章 天上天下唯我独尊
睡蓮は瑞の健気な笑顔が痛々しく感じ、視線を逸らす。
「……まだ記憶は戻らないのか?」
瑞は答えず、曖昧に笑う。
「たまに、おかしな夢を見るんだ」
「夢ですか?」
「ああ。記憶が戻った瑞さんがいなくなる夢だ。部屋がもぬけの殻になっていて……」
睡蓮の表情は暗く、桜色の瞳は不安げに揺れていた。
瑞は静かに首を左右する。
「……たとえ記憶が戻っていても、皆さんに黙ってどこかに行ったりしませんよ」
「約束してくれるか?」
睡蓮は長い睫毛を持ち上げて瑞を見る。
レンズ越しに見えるつぶらな瞳、憂いを帯びた口元。
瑞はどきんとしつつ頷く。
「は、はい」
「それにしてもおかしな話だ。僕は瑞さんの幸せを願っているのに、記憶が戻ればいいと思えない」
睡蓮は真面目な調子で口に手をやり考える。
瑞に視線を戻し、
「この気持ちは何だ?」
ゆっくりと迫った。
「あ……睡蓮、さ……」
瑞の顔が赤く染まる。