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影の花

第36章 物々交換


「よー菫くん、また虫探しとるん? なんかええのおった?」

竜胆は庭先にしゃがみこむ菫を見つけ、へらりと笑いかける。

菫は顔を上げ、ふるふると首を振った。

「いいえ……今は、違うんです。考え事をしてて」

「なんや、悩み事かいな。お兄さんになんでも言うてみい」

竜胆は得意げに口角を上げ、胸を叩く。

菫は竜胆を見上げ、小さく口を開いた。

「実は……ぼくまだ、精液が出ないんです……」

「お?」

「ちゃんと出した方がいいってみんな言うのに、一人でするのが全然上手くいかなくて」

「あーなんか知らんけど溜めんと出した方がいいとは言うな。声変わりせーへんとか言うてなあ。眉唾物やけど」

竜胆は笑って言う。

菫は竜胆をじっと見つめる。

薄く出た喉仏、関節の出た指、手の甲に浮き出た青緑色の血管。

菫は自分の小さな手に目線を下げ、改めて竜胆に目をやった。

「竜胆お兄さんはいつから出るようになったんですか?」

「も、もう忘れたなあ、えらい昔のことやし」

「そうですか……」

菫はしゅんとした様子で肩を落とす。

竜胆は困った顔で頭を掻いた。

「お兄さんが手伝ってやろか? ほんまに出るようになるかは知らんけど」

「本当ですか!」

「よっしゃ任せとき! お兄さん厳選の春画を見せたる」
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