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影の花

第35章 サンドリヨン


「あらあ〜瑞ちゃんいい飲みっぷりねえ。ほら昼顔ちゃん、お酌してあげてちょうだい」

「はい……!」

昼顔は蘭に言われ、空になった瑞のお猪口に酒を注ぐ。

瑞は律儀に三杯飲み干し、目つきを少しばかりとろんとさせる。

蘭はすぐに酒を注ぐよう昼顔に目配せし、雅やかな京扇子を取り出す。

立ち上るお香の煙をさりげなく瑞の方に仰ぎながら、妖しく笑う。

「こんな可愛い子にお酌されていいわねえ、瑞ちゃん。普通だったらこんな美女と美少女左右に据えて酒盛りなんて、一生経験出来ないわよ」

「ええ……両手に花ですね……」

「あら上手いこと言って。嬉しいわ……ほらもっとグっといってちょうだい、グっと」

蘭は本領発揮と言わんばかりに酒を勧め、その杯を受ける瑞も、魔法にでも掛かったように喉に流し込んでいく。

果たして香のせいか、酒が回ったせいなのか。

瑞の目はすっかり蕩け、口元はだらしなく緩み切っていた。

昼顔は初めて目にする瑞の顔を盗み見、ドキドキと心臓を高鳴らせる。
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