第35章 サンドリヨン
「夜分にごめんなさいね。瑞ちゃん、ちょっとアタシの部屋までいいかしら?」
「蘭さん。勿論良いですが、どうされましたか?」
自室から顔を出した瑞は笑顔で頷き、部屋を後にする。
蘭と廊下を歩きつつ、首を傾げた。
「大した用じゃないんだけど……」
蘭は言葉を濁しながら、二人は蘭の部屋に到着する。
「昼顔ちゃんがお待ちかねよ」
「こ、こんばんは」
障子が開かれ、昼顔は緊張気味に頭を下げる。
昼顔は昼間と同様に、振袖姿で綺麗に化粧をしている。
部屋には甘い香りが充満している。
線香立てから細い煙を吐いているのは、もちろん惚線香。
瑞が部屋に入ると、蘭はすかさず障子を締めた。
瑞は昼顔を見下ろし、にこりと小首を傾げる。
「昼顔さんこんばんは。蘭さんに呼ばれて来たのですが、何かご用事でしょうか」
「えっと、その……」
「まあとりあえず座ってちょうだい! たわいもないお話を楽しみましょ。瑞ちゃん、こんな可愛い子待たせちゃって。駆け付け三杯よ」
蘭は用意しておいた徳利からお猪口に酒を注ぎ、瑞に手渡す。
「えっ、あっ……い、いただきます」
瑞は勧められるがままに酒を煽り、くいっと飲み干した。