第5章 蕾に水を

「……主様？」

早朝、蒲公英が目を覚ますと隣に瑞の姿はない。

慌てて飛び起き、

「新しい主様ー！ 主様あ！」

茶屋の中を探し回る。

厠を覗き、風呂場の戸を開き、廊下を歩く。

その声に気がついた萩が縁側から腰を上げた。

「なんだ蒲公英、どうした朝っぱらから。旦那に用事か？」

「違います！ 前の主様じゃなくて新しい主様はいずこにおられますか！」

「な、なんだあ……？」

「前の主様よりあたたかくてふわふわしている主様です、くっつくと蒲公英のここがあたたかくなるのです」

蒲公英が自分の胸にそっと手をやり、幸せそうに目を伏せる。

萩が首を捻っていると、

「おはようございます」

洗濯物を干し終えた瑞が二人の前に顔を出した。

蒲公英の顔がぱっと明るくなり、

「主様！」

瑞のお腹に向かって両手を広げ、ぎゅっと抱きつく。

瑞は多少驚いた顔をして、にこっと目を細めた。

手馴れた様子で蒲公英の頭を撫でる。

「蒲公英さん。おはようございます、昨夜はよく眠れましたか？」

「はい！ 主様のおかげです」

萩が慌てて口を挟む。

「おいおい、そいつは主じゃねえぞ。第一旦那はまだご健在だろうが」

「いえ、蒲公英の主様はこちらの主様です」

蒲公英は瑞にぎゅっと抱きついたまま、ふるふると首を左右する。

「それに、瑞は下働きだぞ。昨日から来たばっかりの新人だ」

「……なんと」

朝顔は目を見開くも、すぐに瑞を真っ直ぐに見上げた。

「主様、なんと不憫な……蒲公英は信じておりますからね」

「な、何をでしょうか……？」

萩は二人のやり取りを困ったように笑って見守っていた。