第5章 蕾に水を
「いえ、わたしは、あ、主様にご用があって……」
瑞はしどろもどろになる蒲公英をぼんやりとした目で見つめる。
「もしや、眠れませんか……?」
「ね……眠れ、ない……です、と言いますか、眠ってはならぬと言いますか……! 今日は、主様に最後の仕込みを……」
瑞は半分寝ぼけながら蒲公英の訴えを聞く。
じっと蒲公英を見つめ、
「そんなところにいては足が冷えますよ」
瑞は掛け布団を捲り、示した。
「入ってください、共に寝ましょう」
蒲公英の顔が強ばる。
「はい……失礼致します」
静かに頷き、ゆっくりと布団に潜り込んだ。
いつ帯を解かれるか、と蒲公英は身体を固くして待つ。
そのうち、瑞は寝息を立て始めた。
蒲公英は少し焦った顔で瑞の袖を引く。
「……ほ、本当に寝られるのですか」
「え……?」
瑞は寝ぼけまなこで首を傾げる。
「い、いえ、起こして申し訳ありません、寝られてください……」
蒲公英は首を振った。
また微睡み始める瑞に寄り添い、小さな足をくっつける。
「あ……あたたかいのですね、新しい主様は……」
「ん……」
蒲公英は瑞の浴衣をきゅっと掴む。
幸せな気持ちで眠りこけていった。