第35章 サンドリヨン
「あらあ〜! 良いのあるじゃな〜い、いっつも地味なの着てるからあれ一着しか持ってないかと思ってたわよ」
「そんな訳ないじゃないですか……」
「冗談よ冗談。その服に負けないくらい綺麗にしてあげるわね」
蘭はにこっと目を細め、優しく昼顔の顔に触れた。
「あ……ありがとうございました、蘭さん」
昼顔は綺麗に化粧をした顔でぺこりと頭を下げる。
鼈甲の櫛を挿した昼顔は初な雰囲気はそのままに、嫋やかな少女のようだった。
「いいのよ〜、昼顔ちゃん、すっごく可愛いわよ」
昼顔は蘭に送り出され、振袖姿でしずしずと廊下を歩く。
「それにしても、一体何故瑞さんの顔が思い浮かんだのだろう……確かに兄弟共々お世話になっているけど」
独り言を呟いていると、桔梗とバッタリと鉢合わせた。
桔梗は驚いた目で昼顔を見る。
昼顔はいつになく綺麗に白粉を塗り、真っ赤な紅を差して、眉墨を施し、上等な振袖を身にまとっていた。
「んだよ昼顔。化粧したりして、今から仕事か?」
「そ、そうじゃないけど。たまにはね」
「ふーん」
「……何さ」
昼顔はまじまじと見られ、落ち着かない様子で桔梗を睨む。
「いや別に……」