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影の花

第35章 サンドリヨン


鼻歌を歌いながら廊下を歩く昼顔。

にっこりと口角を上げ、明るい橙色の髪を揺らして歩く。

そんな昼顔を見た蘭は声を掛けた。

「あらっ昼顔ちゃんご機嫌ねえ、何かいいことでもあった?」

「はい! 最近野菜の育ちが良くて! もうすぐ良い物が取れそうなんです」

「野菜……」

蘭は深くため息をついた。

「な、なんですか?」

「昼顔ちゃんあんたねえ……毎日毎日畑仕事ばっかして、土いじりばっかり! 健全過ぎて涙が出ちゃうわ」

「健全なのに……?」

蘭は野良着を着た昼顔を呆れ顔で見、

「ふわッ!」

顔をむにゅっと掴んだ。

健康的な色をした肌はキメが細かく、指に吸い付くような柔らかさをしていた。

すっとした鼻筋、昼顔たち兄弟特有の金色の猫目、形の良い唇。

人の良さそうな眼差しで蘭を見つめる。

普段から畑仕事をしているせいか、程よく引き締まったしなやかな身体を見下ろし、蘭はようやく手を離す。

「あんた素材はいいんだから、普段からちょっとはおめかししなさいよ」

「僕は化粧はお仕事の時だけで充分かなと……」

昼顔は苦笑する。
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