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影の花

第34章 惚れた腫れた


「馬鹿っ……てめえ……!」

「今日は素顔は見せてくれないんですか? 牡丹さんがいるから恥ずかしいんですかね」

両手を伸ばし、薊の頬に添えた。

薊の肩がびくんと跳ねる。

「……接吻でもされると思いましたか? ふふ、自分がされるとなると生娘のように怯えるんですね」

「ふざけんじゃねえッ……!」

薊は言い返すも身体は動かず瑞を押しのけることが出来ない。

「分かるんですよ。ずっと弱い部分を隠して、触れられないようにトゲのある言葉で武装して……」

瑞の手が顎を伝い、頬を撫で、癖のない前髪の下に潜り込む。

優しく持ち上げられると濁った左目に光が差す。

薊は食い入るように瑞を見つめていた。

「薊さんって本当は……すっごく臆病なんじゃないですか?」

瑞は両の眼を細める。

「誰かに甘えたくて、私だけに弱みを見せてくれたんでしょう? 私はそれが嬉しいんです、だからもう無理しなくていいんですよ……?」

薊を抱き締め、くすりと微笑みを零した。

「瑞。もう許してあげて欲しい」

瑞は牡丹に視線をやり、薊から渋々手を離した。

「……牡丹さんがそう言うのなら」

「というより、それ以上瑞が薊を触るのが嫌だ。せめて俺の見ていない場所でやって欲しい」

「て、てめえ……」

薊の顔がひくひくと引き攣る。
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