第5章 蕾に水を
それから暫くして、瑞の部屋の障子の向こうに小さな影が映る。
小柄な影が、ゆっくりと障子を開いた。
「失礼致しま、す……主、様……蒲公英にございます……」
眉上でぱつんと切られた前髪、五月人形のような真っ直ぐな黒髪。
意志の強そうに目尻が切れた茶色の瞳は、不安げに揺れていた。
眉を綺麗に整え、化粧を施し、黄色の小袖を身にまとっている。
蒲公英と名乗った童男はおずおずと顔を上げ、瑞の入っている布団を見つめる。
形の良い唇を、覚悟を決めたように引き結んだ。
「主様……?」
蒲公英は反応のないのに不思議そうにし、失礼致します、と再度声を掛けて部屋に入る。
布団の脇にちょこんと座った。
「主様、蒲公英です。あの、今日はお相手をして頂けると……」
「ん……」
瑞はごろんと寝返りを打ち、漸く目を覚ます。
のそのそと身体を起こし、
「どう、しましたか……」
眠たそうに目を擦った。
「んえッ!えっ、あっ、あ……!えっ!」
てっきり影の花の主人が待ち受けていると思っていた朝顔。
布団の中にいる見知らぬ青年に目を丸くし、慌てふためく。