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影の花

第34章 惚れた腫れた


「……なるほど。私が薊さんと仲良くしたいと言ったから、牡丹さんはずっと気にしてくれてたんですね」

事のあらましを聞いた瑞はふむと頷く。

牡丹から渡されたイモリの黒焼きを見つめる。

「それで、これを掛けると薊さんと私が相思相愛になる……と」

「ああ……でも……俺には、出来ない。瑞が薊を好きになるのは……なんだか、モヤモヤする……だから最後は瑞がやってくれ」

牡丹は俯いた。

瑞は下を向く牡丹を見つめ、静かに手を握りしめた。

牡丹の前に立ち、粉にした黒焼きを振りかける。

「……あ……」

牡丹が見上げると、瑞は優しく微笑んでいた。

「こんなの、ただのおまじないですよ。優しいんですね、牡丹さん……ありがとうございます」

瑞は座り込む牡丹の背にそっと腕を回す。

牡丹は鋭い目つきを幸せそうに緩める。

「……違う……これは本物だ」

「え」

牡丹は瑞の身体に顔を寄せ、頬を染める。

「瑞が俺に掛けたから、俺は瑞の事がもっと好きになった……」

「あ……牡丹、さん」

「おい」

二人っきりの世界に浸る瑞たちの雰囲気を冷たい声が切り裂く。

二人が振り返ると、薊が苛立ったように口角を歪めていた。

「黙って見てたらくッだらねぇ茶番劇に人の名前出しやがって。人をダシにして盛りやがるたぁいい趣味してんじゃねえか」

瑞は顔を赤くして、ブンブンと首を左右に振る。

「や……薊さん、これはっ……牡丹さんは、私の為に尽力してくれただけで……!」

薊は両目を細めて瑞を見下ろす。

ゆっくりとしゃがみ込むと、瑞の顎を持った。

クイッと視線を合わせ、口角を上げる。
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