第34章 惚れた腫れた
「なんだこれは」
「開けてごらん」
牡丹は包みを開き、中に入っていたそれを見て眉間に皺を刻む。
「……いもちゃんとりっくんじゃないか」
大事そうに収まっている二匹の真っ黒なイモリ。
蓮華は首を傾げた。
「なんだいそれ? これはお店で買ったイモリの黒焼きだよ」
「やっぱりいもちゃんとりっくんじゃないか」
「よく分からないけど、このイモリの黒焼きは惚れ薬として使われていてね。こっちのオスのイモリの黒焼きを砕いて自分に振りかけ、メスのイモリの黒焼きも同じようにして相手に振り掛けるのさ。そうすると、振りかけられた相手が振りかけた相手のことを好きになり、相思相愛になる」
牡丹は手渡されたイモリの黒焼きをしげしげと見つめる。
蓮華は優しく笑った。
「この振りかける役を牡丹くんがやったらいいのさ。瑞くんにオスのイモリの黒焼きを振りかけ、薊くんにメスのイモリの黒焼きを振りかける訳だ。そうすれば、薊くんは瑞くんのことを好きになるよ。両思いになるのさ」
蓮華の言葉に牡丹は黙り込む。
ゆっくりと口を開いた。
「……瑞も薊のことを好きになるのか?」
「まあ、そうなるのかな」
「そうか……」
「物は試しさ。とにかく使ってみるといいよ」
蓮華はニコッと笑う。
「……ありがとう」
牡丹は頭を下げた。
「どういたしまして。あ、でももし上手くいったら、後払いでお礼を貰えると嬉しいな……勿論お金なんかじゃないよ、牡丹くんのから」
「蓮華」
「ん?」
牡丹は言い淀むも、蓮華に小さな声で訊ねた。
「その……これは俺にも使えるのか」
蓮華は目を細め、
「うん」
にっこりと頷いた。