第34章 惚れた腫れた
牡丹は瑞と別れ、考え込みながらとてとてと廊下を歩く。
「やあ! お困りのよ」
蓮華が声を掛けるも、牡丹は彼の前を素通りした。
「ちょちょちょちょ! 牡丹くん! 僕がまだ話しているよ!」
蓮華は慌てて牡丹の肩を掴む。
牡丹は冷めた表情で蓮華を見て、
「蓮華には聞かん」
視線を前に戻す。
「どうしてだい、話すことで楽になることもあるだろう? 相談に乗るよ」
「代償が大きすぎる」
蓮華はぎくうっと肩を跳ねさせ、目を泳がせる。
「な、ななんの事かな……僕は純粋に牡丹くんの力になりたいだけだよ……」
目を横に逸らしなからボソボソと言い、小さく咳払いをした。
「本当の事を言ったら考える」
蓮華はぽっと頬を染める。
「まあ欲を言えば、その芸術的な彫り物が施された美しい肉体と冷たい印象を与えるほど整った精悍な顔、見た目とは裏腹に無垢な中身を堪能させて貰えれば言うことな」
牡丹は黙ってその場を立ち去る。
蓮華は慌てて牡丹を追いかける。
「わーッ! 無視しないでよ! 一番傷付くんだから」
「不純だ」
「ほ、本当にちょうどいいものがあるんだよ。力になりたいのは本当だしね」
蓮華は何とか牡丹を引き止め、自分の部屋に上げた。
「……なるほどね。薊くんと瑞くんも、これを使えば蜜月さ」
蓮華は文机の鍵付き引き出しから小さな紙の包みを取り出し、牡丹に手渡した。