第34章 惚れた腫れた
影の花に戻った瑞は先程のことを思い返し、ふうとため息をついた。
「ただいま帰りました」
「おかえりい。ってどうしたんや兄やん、顔暗いでえ?」
寄ってきた竜胆は、物憂げな表情をした瑞に首を傾げる。
「ええ……少し」
「なんかあったん? 俺で良かったら話聞くで」
にこーっと笑みを浮かべる竜胆。
言うべきか言わざるべきかと考え事をしながら二人で廊下を歩いていると、
「わあ!」
反対側から歩いてきた人影とどしんとぶつかった。
瑞は相手を押し倒す形になり、馬乗りのまま見下ろす。
「いたた……大丈夫ですか」
「兄やん、前前……!」
竜胆に言われて改めて相手の顔を見る。
「え?」
「てめぇなあ……」
瑞の真下にいる薊は、引き攣り笑いを浮かべていた。
「薊さん……! わ、分かってくれますよね、今のはたまたまぶつかってしまって……ッ」
瑞は弁解しようとわたわた手を振っていると、柔らかい感触をむぎゅっと掴んだ。
「あッん!」
いきなり胸を鷲掴みにされた薊は甘い声を漏らし、
「ッ……!」
バッと口を押えた。