第34章 惚れた腫れた
「薊さん」
町中、瑞が歩いていると薊とばったりと会う。
瑞が微笑みかけると、薊はくるっと踵を返した。
「な、なんで無視するんですか!」
「あー喧しいな……てめえといると調子が狂うって事に気ぃ付いたんだよ」
薊はうっとおしそうに瑞を振り返り、切れ長の片目で軽く睨む。
「ガキ共も舐めて掛かってやたら話しかけてくるようになるし……物珍しさからちいとからかってやろうかと思った時もあったが、もうやめだ。元々俺ぁそういう仲良しごっこは嫌いなタチなんだよ」
薊は目を点にする瑞を見下ろす。
「分かったら、これからはベタベタ引っ付いてくんじゃねえよ。俺の性分じゃねえ」
「……薊さんっ!」
瑞は思わず薊の帯を掴んだ。
「ぶっ!」
歩き出そうとしていた薊は勢いよくすっ転ぶ。
「ごっ、ごめんなさい! 大丈夫ですかっ」
「てめ、喧嘩売って……」
薊は鼻を押えながら顔を上げ、ちっと舌打ちした。
「兎に角、そういう事だからな。てめぇはお仲間連中と仲良しこよししてやがれ。俺には構うな」
瑞はそれ以上何も言うことが出来ず、去り行く後ろ姿を見つめていた。