第34章 惚れた腫れた
竜胆は目をぱちくりとさせる。
「……い、今の声薊兄さん?」
「えッ」
薊は目を丸くする瑞の胸ぐらを掴んだ。
「おいコラァ……てめぇ、いい加減にしろよ……!」
「わわわわ……わざと、じゃ……!」
薊に掴みかかられ、涙目になる瑞。
覚悟を決めて目を閉じた瞬間、
「やめろ」
通りがかった牡丹が二人の間に入り、薊の手を掴んだ。
「牡丹さん……!」
薊はこちらを睨む牡丹に一笑を零す。
「鉄仮面の癖に眉間に皺寄せて睨みやがって。随分とご執心じゃねえか」
はっと笑って吐き捨てるように言うと、瑞から手を離した。
「くっだらねぇ。牡丹。言っとくけどなあ、そいつから俺に付き纏って来たんだからな」
薊は捨て台詞をすると、呆然とする瑞たちを置いてその場を後にする。
牡丹はしゃがみこみ、心配そうに瑞を見つめた。
「……大丈夫か」
「は、はい」
瑞はこくんと頷いて立ち上がる。
「にしてもすごい声やったな、薊兄さん……」
瑞は牡丹に連れられて自室に入る。
何故か牡丹と二人っきりの状態に首を捻りつつ、心配してくれたことに礼を言って頭を下げた。
「それにしても、薊さんは私の事が嫌いなんでしょうか。少しは仲良くなれたと思っていただけに、心に来ますね……」
項垂れると、牡丹は真顔で瑞を見つめる。
「それは分からないが……瑞は薊が好きなのか?」
「なんでですか!?」
強めに言い返す瑞。